どうせ飛べないカモメだね p40

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朝の空気を裂いてくる声が、脇腹を蹴り、肩を蹴る。
 飛べないかもめを、蹴っている……
 脈絡もなく、美弥の声が耳の奥に跳ねる。
 わたしは旦那しか知らないで終わるのかしらね。
 夢羅はもう十日以上も休んでいる。
 美弥が幼い娘を捨てて装身具屋の小野瀬と逐電したといううわさ
がある。
 美弥は、飛べたのか。
 朝の光を目のなかいっぱいにためているかれは、じぶんが内股で
歩いているのには気がつかない。
 シロナガスクジラの声が遠くなる。
 きょうこそあの函をあけてみよう。
 骨になっているかもしれない。
 顔を想い出せないが、仮名サトコにもういちど会いたい。