朝の空気を裂いてくる声が、脇腹を蹴り、肩を蹴る。
飛べないかもめを、蹴っている……
脈絡もなく、美弥の声が耳の奥に跳ねる。
わたしは旦那しか知らないで終わるのかしらね。
夢羅はもう十日以上も休んでいる。
美弥が幼い娘を捨てて装身具屋の小野瀬と逐電したといううわさ
がある。
美弥は、飛べたのか。
朝の光を目のなかいっぱいにためているかれは、じぶんが内股で
歩いているのには気がつかない。
シロナガスクジラの声が遠くなる。
きょうこそあの函をあけてみよう。
骨になっているかもしれない。
顔を想い出せないが、仮名サトコにもういちど会いたい。