蛞蝓づくし

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 蛞蝓づくし



 ウメキューを作ろうと思ってね、いえで。ウメキュー。ああ。胡瓜
に梅干つぶしたのをのっけて海苔で巻いて。ああ、ああ、あれね、う
まい。酒がすすむ。ここのメニューにはないな。あれだったらここで
もできるとおもうけど。頼んでみようか。うん。で、ね、胡瓜を切っ
たところへ電話があったんだ。ちょっと長い電話でね。酔っぱらって
いたせいもあるけど、電話が終わったあと、それきり忘れて、ちびち
びやってて、あっと思い出して台所へ行った。それで、包丁で切ろう
としたら、胡瓜の切口にナメクジがしがみついてて。喰うんだね、胡
瓜を。ナメクジの、歯型、ってのはおかしいかな、たしか、舌に歯が
生えてて……ちょっと変だな。ああ、そうじゃなくて、ちょうどあれ、
おろし金みたいになってるんだ、舌が。それでなぞったあとが胡瓜に
ある。うん、うん、それで? 窓のそとへ指で弾きとばしてやった。
それがね、それだけじゃないんだ。包丁をあてようとしたら、包丁の
刃にも一匹はりついてた。気持わるいな。気持わるい。そしてね、ま
たなんだ、胡瓜切ろうとしたら俎板にも一匹。俎板とナメクジの色が
似てるもんだから、保護色ってのか、あれみたいだった。うっかりす
るとナメクジのみじん切りってことになる。やだねえ。やだねえ。
 きたなくしとくんだろう、台所。いや、そんなことはない。外食し
ないし、料理は好きだから、台所もきれいにしておく。
 これまでナメクジって夏場の、梅雨どきの生きものとばかり思って
た。だから、こんな季節にと思ってね、そのことでぎょっとした。あ
れは年じゅういるのかな。年じゅうかどうかは知らない。カタツムリ
はどうなんだろう。冬はどうしてるんだろう。やつは家を背負ってる
から、あれで冬ごもりかな。いやいや、家を背負っているったって、
あれはカタツムリのからだの一部だよ。アタマをひっこめてしまえば、
からだ全体だ。あ、ま、そうか、なにをいってるんだろう、おれは。
 もうさすがに、モロキューなんかどうでもよくなってね。俎板を洗
おうとした。おっと、またいたんだね。またいた。スポンジにとまっ
てた。やだなあ。そいつがだな、脱皮してるんだ。ええっ、脱皮。脱
皮。先剤かぶってそれで皮膚がふやけでもしたのかと思ったら、そう