アフリカの赤


夢の馬にまたがったまま
おれは馬ごと裂かれ
東に氷雨の旗
西にスルメの幟
旗、はためかず
幟、いななかず
おれはめざめる

かたわれの氷雨
かたわれのスルメに
小菊を添え
首をつって死んだ弟が
アフリカの赤
と名付けた硯大の石に
日本の不快な秋を供える

赤い石の 照りかがやく地平には
けものたちの群れが葬列のようにつらなり
石にまぼろしの隊列を映して二列
そのはるかな後方を
ふたつに避けた馬が
左右を競って追尾する
冷たい馬
固くなっていく馬

東に氷雨の旗
西にスルメの幟
遠い国の燃えつきる赤を吐いて
一頭の馬に立ち返る日を

だれが夢みるか
旗、なおはためかず