春の田んぼにばらまかれた家々が枯れているばかりの関東平野で
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アケビが笑う日


アケビはささやぶから伸びて
イヌシデの幹に寄り添い、枝にからまって
生き延び、花をつけた

おれは地下足袋をはき、軍手をはめ
カメラバッグをかついで陋屋から脱出し
アルミの梯子をつたい
やぶに押し入り
イヌシデを足がかりに
となりのシロダモの木をよじ登り
足場をたしかめて
レンズキャップをはずした
そこまではまるで兵士のようだが 
どんなあらそいも目にはみえない
飲み水を汲みに何キロも歩く少女の姿もみえない
丘から見おろす関東平野
春の田んぼにばらまかれた家々が枯れているばかりの
 
おれは平和な自分を懲らしめたりしない
平穏な自然を少しさわがせて
シロダモにすがり
おれいっぴきのバランスをとる
 
紫のちいさな雄花は大柄な雌花と契り
やがて実を結ぶだろう
アケビは熟して割れて
おどけた笑顔になるだろう
そのことさえおれは無関心なまま
ひたすらマクロレンズで雄花を撮るために
木をよじ登り、また陋屋へ帰っていく
 
丘のふもとに暮らし
花をつけず生涯をそうして終える