動物園がゲートをひらく 3   順 番


 いっぴきにひきさんびき、おっとこどもあたし。
 動物園のチケット売り場にひとのけはいが動きはじめている、と
いうことはそろそろゲートがひらくのだ、時間前にくるところじゃ
ないのに、どうしてこんなむだなことをしているのだろう、いっぴ
きめのせっかちのせいだ。ほらこんなに動物園の時間がにおいはじ
めて、ちょっとやだな、こんなつまらない時間がからだにしみつく
なんて。
 いっぴきめがにやついているのはなんだろう。ゲートのむこうに
なにがみえる、いっぴきめの位置からみえてここからはみえないと
いうことか、どうせろくなものじゃない、あのにやつきは。
 いっぴきめが、そこに独りでいるというようすをみるのは不快め
ざわり。ただそこにいるのではなくて占領している場所、そのから
だに接している、木と鉄でできたベンチのひとっところ、ベンチの
ヘリで折れているひざから下、カジュアルシューズの二つのゴム底
が接している地面、くつ底で踏み隠しているなにかしらの秘密、そ
のこともくるめていっぴきめが独りであることが露骨になって、あ
たしは自分がとりのこされているとおもうほど若くはないし、そう、
ここにはにひきめもいる。おとなしすぎて、だいじょうぶかしら。
 にひきめをこんなふうに意識すると、なんばんめかのおんな、と
いうかずがあたしに生まれてくるのは、そんなつもりもないのに嫉
妬なのか、あたしはなんばんめかのおんなだけど、そしてさらにな
んばんめかのおんなに対峙する、べつのおとこがあたしのなかにあ
らわれる。
 そのおとこを知っている気もする。ここのいっぴきめだってあた
しにはなんばんめかのおとこだけれど、そしてここでおしまいとき
まっているわけでもない、つぎがあるかもしれないし、可能性だけ
をいうならいつだってつぎの数字に直面している。
 動物園のゲートはまだひらかない、タマはひとりでどうしている
かしら、カーテンをくぐって、あの窓から外をみているかな、うち
はタマひとりの動物園だな。がりがりってなんだ、ああ、スピーカ
ーね、びっくり。
 いっぴきめがせっかちに立ちあがって、あたしはにひきめのせな
かをかるくたたく。いっぴきにひきさんびき、つれだって動物園、
べんとうが入ったショルダーバッグは前をいくなんばんめかのおと
こがかかえて。