いつか赤ん坊を浮かべていた いまは空気が抜けた浮き輪のようなもの
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ふくろ憑き

おれはきょう、うっとりと漂って
ヨシダ
体内からあらゆる袋を放り出し
ついにたったひとつの袋となり
息もたえだえ
とか 風のたより
気を失う寸前のような恍惚が
暖簾をくぐってやってきたそうだ

さてお茶でも
とおもうが茶葉もない
インスタントコーヒーの粉ひと匙ない
なにしろ袋はことごとく放り出した
残る袋も目に見えない穴があるらしく
いよいよしぼむばかり
オカリナもふけぬ
くしゃみもできぬ
それではと、しびれるような恍惚が
ヨシダのからだをひとしきりふくらませ
暖簾を出たそうだ

風のたよりのヨシダになって
吹流しよろしくのんきなおれは
そのくせ未練たらしくいくつもの袋をかかえ
ほんとのところどれがおれやら
おろおろしている毎日
だからしょっちゅう夢を見る
風のたよりの暖簾をくぐって訪れる
ヨシダカヤコ
かのじょに似ているが、やせた袋
いつか赤ん坊を浮かべていた
いまは空気が抜けた浮き輪のようなもの