烏賊町へおいでよ


いちど 烏賊町へおいでよ
えんぺらはミルクいろの半透明の土地が
しょっちゅう波うっている町だ
おおかたは沼地
三本とも五本六本ともみえる足は
宇宙の水をあつめてながれる川
きみたちはわが町を雲のようにみているかもしれないが
じじつ雲みたいなものだが
鉄道ぐらいはある
烏賊なら軟骨だろうとおもうだろうが とうぜん鉄骨さ
線路がえんぺらのさきから
足がたなびくあたりへ一直線に延びている
そしてジッパーの金具みたいに
のろのろと動くちいさな黄いろい車両がある
車両が走るたびに田園風景が
ひらいたりとじたいりするわけではないが
乗る人のこころの開閉にはしっかり作用して
端正な顔だちの住民がしずかに笑みをうかべている
まあ きみは
ジッパーがひらいたままの町を想像してくれていい
はらわたはなににだってある
もうひとつおしえておこう
空はメッシュで 網目を時の流れがつたっている
烏賊町の人びとはおのれの時の流れを読み
読まなくてもいいし 読まずにすませることも可能だが
われらの生まれながらにしての世界が
きみたちには残酷かもしれない
ときに充血した網目のそらが
とりとめなくひろがった沼にもくっきりとうつる
きみはここへきてがんじがらめのそんな恐怖も体験するといい
ゆれる土地にしたっておなじこと
われらにとっては
どこからたべてもいいんだよ
と だれかがささやいてくれているようなゆらぎなのだ
さて ほかにこれといったとりえもないが
ともかくいちどおいでよ
われらの土地がさいごのスミを吐かないうちにさ