磁気テープ工場の月


建物の上に
でっかい月だな
ドブ川に鼻をつまんで白壁から剥がれた月だ
静電気のしみかな ふるえる月だよ
いまならあそこへ旅立つのもわるくない
ゼロ歳児にも理解できる構図だものね
倉庫前のトレーラーが
骨色に光っている
ひとりで荷積みなんて
不吉な影絵だな
満月の夜の仕事といや
だれにしろ悪魔の血がさわぐ
ほほおいと呼んでみたいよ
録音されるのを気にしながらでかい声
ほほおい
よせよせ
栗の花が匂うぞ
よせったら
満月や くるう男の いや痩せた男の いや恋する男の
白い四階建からしわくちゃな足うらが
だからいわないこっちゃない
荷を積む男も守衛も息を呑んでみている
わかるかなあ 飛んで行く人はほら
形にしたって精子だよ 男も女も
とりあえず 女いっぴき
春の月 と修正だ
栗の花なら夏だろう
明け方は二年五か月ぶりの月食だとさ
欠けた月に行く気がするかい
悪鬼も気がぬけるかな
だれが 鬼だと?
ドサッと、おとがしなかったかい? いま