新宿の女


親をころしたいよ と女がいう
おれは喫茶室のざるみたいな椅子をぎしっとゆする
隣席では男たちが
そらの見えるところはどこ? と訊いている ハマのチエコは男だったぜ
おれの目の前の女は
ショートケーキにフォークをたてる 皿をかちんと鳴らして
夜更けの街にたちどまって
ガラス張りのこちらを見ているだれかがいる

ころしたいよといった女の顔は申しぶんなく美形だ
おれは女に親しくされてもいないのだが
話がほんきのビジネスなら親しくするのは禁物だ
交友関係などもつべきではない
ビアガーデンがありますけど 
ウェイトレスがていねいに答えている でももう閉店しました
ごあいさつだが商売熱心でよろしい
高校一年のとき家出して三日でつれもどされた と女はいった
あのとき部屋をかりたの アパートの廊下をテーブルに指でえがく
玄関があって 廊下のこっちで ものおきみたいなとこ
借りるときのカネはどうしたんだ
気ままに生きているわりに現実的ね 女はせせら笑う
母親のをくすねたのよ
もう部屋なんてものじゃなかった ものおき
おれがいま住んでるとこもそうさ
 

 



サトコも男だったりしてな。かもな。まさか。
ラストオーダーをとりにきたウェイトレスに
おれたちふたりで用済みの首をふる
こんやふたりで同じことをしたのはそれだけだ
何時まで? むこうの男が訊いている。あと十五分か
なにか食べる? 男たちが顔を寄せ合う
やだねカマっぽいのは それも集団だぜ
おれならやってくれると思うのか
親父をころしてくれといったのもいたな 養子だった
そのうちそいつの女房が高校生みたいなヤツとできちまいやがった
ころしたい人間にはことかかぬってわけだ

女はケーキをあと一口のところで残した
ころしたい親が住む家へ帰るぶきっちょな女と
ひきとめる才覚もない無粋な男が駅へいく
話を聞いてくれてありがとう
そう そのお礼がいい おれはなにも頼まれなかった
だれもころさなくていいのだ
気をつけてな
そらは、と訊いた男たちが四人 横につらなって地下道へ下りていく
地獄にも星はあるのかい
でもまあ人生が好転しそうな気がするな
だれが あなたが それはいいわね
女は目でわらって改札口を入り小さく手をあげた