もやを、北へ


関東平野に朝陽がのぼるのを
みるぞ と外へ出る
たとえば明け方の風呂につかれば
ここは関東平野であり
外へ出れば関東平野がよくみえる
とはかぎらない
大地を覆う秋の稲穂がきんいろにうねる
深いもやの奥に
たのみの地平線があるのだが
のぼる朝陽を待てば
ひがしの街道に
やせた月のようなおんながいて
両手にぶらさげたのは
だれの腕か
わかれに 男に手を握らせたのは
いやいやだったが
そのまま持ち帰って幾星霜
そんな手つき
朝陽がのぼる
おんなは ふたりぶんの腕を
さらにほそく、ながくして
こがねいろの稲穂を横切っていく
きたへ
きたへ
おれは関東平野の朝陽をわすれて
おんながもやにまぎれていくのをながめ
朝から湯ざめの
手の甲を噛んでみる