世界が一個の海苔巻だった日

悩裏魔鬼譚






森までバイクで五〇分
森はスピードを落としてほぼ迷走五〇分
とちゅう 釣りをしている少年を
木の間がくれに見た
母親らしい女が首をたれて寄り添い
そこだけ夜のような
時間がゆるくとぐろを巻いている場所だった
 あれは光るキノコの群れか
 真昼の天の川か

森を出てバイクで一〇分
森のなかのあんなところに
釣りができる流れや池があったか
気にかかってひきかえすと
そこだけ夜が明けそめた場所に
悄然と少年の立ち姿
ふとい老木にうしろからかかえられ
母親らしい女はいない
 こんな光景を具にしたのりまきひとつ
 ここへ残して立ち去った(とおもうほかない)

携帯電話でしかるべきところへ通報したあと
(森のどのあたりかと訊かれても
 こたえられるものか)
森を出てバイクをとめ ふりかえれば
のりまきのしっぽ
のりばかりの暗闇だった