水 神


トンボのくびを
とんとたたいて
あいにび色の雨がおちてきた
そうしていちにちが
終わった夏の日
ちいさいひとたちが
右往左往している
せんたくものをとりこみなさい
つけもの石をそこらにころがしておくな
それよりおまえたち
けっしてころぶな
けがをするな
よのなかはすっかり
あいにびいろに暮れて
雨にうたれた場所では
トンボのあたまが
ちいさいひとたちの
ざわざわしたすがたを
うつしている
ほら おとうさんのくつしたを
わすれてる
パンツも
あとまわしにするくせが
こんなところでいつまでも
はばをきかしているなんて と
父親はいきおいをつけて
新聞をたたむ
父親にかわって娘たちをしかるみたいに
冷蔵庫がまたひくくうなりだす
わがやで動じないやつといったら
こいつだけだな
ほんきで感心して
ドアをあけ
かすれていく あのトンボの目になって
缶ビールをとりだす
それからゆっくり時間をかけて
水の神へと化していく