鳥居から鳥居


夏、そのひとと
鳥居をくぐった
春に会う約束が、果たせず
夏祭りとなった
祭りの準備は整いつつあった
そのひとをしかるべきところへ送り届けるために
ひとりバイクをとりに引き返した
名詞で語るくせをやめさせたかったが
果たせなかった
このごろは曖昧語にまみれ
そのひとの人生だ、とあきらめた
銀行そばの四人の子持ちの不動産屋は
意外にひとなつっこい人物だった
町はずれのピンクの病院長のやつ
消毒液の用意もしねえで
いきなり背中のウミを抜きやがった、とわらった
だれの背中のことか、わからずじまいだった
鳥居にもどった
バイクを鳥居のかたわらに停め
鳥居をくぐると
スピーカーから流れる笛太鼓に浮かれて
鳥居が増殖していた
いけどもいけども鳥居だった
鳥居はしだいに小さくなった
あのひとはこんなにも小さかったろうか
考えているわたしも小さくなっていくのだった
あのひとはどこにいるのやら
賽銭箱さえ見あたらない
わたしはやがて、ゆれる羊水に浮かんでいた
ゆれるのは、母なるひとが男と言い争っているからだった
生まれるのがいやな気がした
生まれた土地も好きになれないだろう
でも、小さくなったひとをバイクの後ろに乗せて
しかるべきところへ送り届けなければと
抜き手を切って
やっぱり鳥居をくぐるのだった