一行一冊


 一篇の詩が一個の書棚のようであったらいいね。
 一行一行が一冊の書物、読む人はその気があれば一行を取り出してページをひらくことができる。
 本なら背表紙に書名があるわけだが、それじたいは、なんでもいい。肝心なのは内容だから。その中身はとくに深遠多彩である必要もない。なにかある、というだけでいい。
 それぞれの本が完璧である必要もない。解釈は読者によって、またそのときどきによって千変万化していい。
 また、書棚から一冊を取り出そうとするとカエルの卵みたいにぞろりと全冊がつながって書棚から落ちるということもあるだろう。一篇の詩はそんなものだから。そのときだって読む人の心がまえの鋏を入れて、読みたい一冊を手にすることが可能だ。読む人自身にすこしでも期待の気持があればそれだけでいい。
 理想というより空想にすぎないけれど、空想なら、ハカリにかければ少しは針が動く空想でありたいね。




2011.4.20