足の数が多ければ足掻きはいっそう悲惨になるか 巣を張らないクモがものかげから飛び出してゲジゲジを捕らえる。 クモは獲物を糸でぐるぐる巻きにしていくのだが、しりから糸をくりだ すというよりも、あれはスプレー糊のようなものかもしれない。ようすを 見ながらそうおもった。 ゲジゲジはまず、しりのほうが(ほんとうのところゲジゲジのしりがど こにあるのか私にはわからない)ともかく頭とは逆のほうが一瞬にして白 い粘膜に覆われる。ゲジゲジはもがいて身をくねらせ、しだいに白いもの に覆われていく。ゲジゲジの足の多さはこの場合、足掻きをいっそう悲惨 なものにするばかりだし、ふだん何用あってあんなに多くの足を必要とし ているのか、いつでも無駄足を踏んでいるのではないかと、もともと嫌い な相手だから意地わるく想像する。 クモはといえば八本の足を器用に使ってゲジゲジのカラダを回転させ糸 をからめていく。くりだされる糸の量とゲジゲジのカラダの回転速度は絶 妙なシステムでコントロールされているのだろう。切れたりたるんだりし ない。たぶんそうだとおもう。 たちまちにして、ゲジゲジのカラダに合わせた白い棒状のものができあ がる。クモにとって持ち運びは棒よりも球のほうがいいらしく、私が知る 限りでは巣を張るクモと同様に獲物を球にしていく。ゲジゲジが球になる。 そうしてあとでどんなふうに食らうのか知らないが(白い獲物の中へ牙 のようなものを差し込んで体液などをチューチュー吸うのだったか)白い 球をかかえてものかげへ消えていく。クモのそれからのことはわからない。 2009.8.6