五味氏は雨が降るたび住まいを改装する

五味氏は雨が降るたび住まいを改装する



 夕方、
「そろそろよごれてきたなあ」
 とながめていたら、翌朝はすっかりきれいになっていた。
 ウンカみたいなヤツがいくつかたかっているから、住まいがあたらし
くなって何時間かたつのだろう。

 五味氏はいつもの居所から少し離れて、前足二本で糸の張りぐあいを
確かめるようなしぐさをしている。
 食事中にもするしぐさだ。
 ニンゲンがほこりを払うために衣服をバタバタふるう行為にも似てい
る。

 五味氏が巣を張り替えるのは何度も見ているが、その仕事始めはまだ
見ていない。
 やぶれた巣を、いよいよ張り替えるときがきたと判断すると、五味氏
はまずなにをするのだろう。
 ふるい巣がそのままあるのでは、おなじ場所に新しい巣を張るのにじ
ゃまになるだろう。
 かんがえてみれば、ここのところもおかしなはなしだ。
「どうせ住まい兼ワナを新しくするのなら、場所を変えてもいいじゃな
いか」  とひとりのバカなニンゲンはかんがえる。
 なにか、巣を張るのにそこでなくてはいけないという理由でもあるの
だろうか。  クモはおおむね、その場所が獲物をつかまえるのに有利
だというふうにはかんがえないらしいというのだが。

 まずはっきりしているのは、カクレミノとなるゴミを再利用する習性
があって、これを持ち運びするのは容易でないだろうということ。
「かくれるなら、そぐそばの葉の裏でも枝の陰でもいいじゃないか」
 とおもうのは、ニンゲンの勝手な感想にすぎない。
 五味氏には五味氏の生きかたがあって、それをとやかくいう権利はだ
れにもない。

 さて、そうしてきれいになった住まいだが、空はどんどん曇ってきて、
雨になることまちがいなしだ。
 五味氏は新築のぴかぴかの住まいを雨から護るためにまたまた改装し
なくてはならないだろう。
 雨粒に耐えられる構造にかえなくてはいけない。たいへんだねえ。


2008.7.2