トマトの夏に裁かれる スーパーマーケットでポットに入ったトマトとナスの苗を二個ずつ買い、 プランターに移し替えた。 こういうものを育てるのは初めてのことだ。 はたしてこの夏、自前のトマトとナスを食べられるか。 小さな庭の草花への水やりは日課になっているから、ともあれ水だけは 忘れることがないだろう。 その日は、朝の水やりをすませてから裁判所へでかけた。 地方裁判所 は町のほぼ中心地にある。 商店街とは名ばかりの、シャッターを降ろした家が続く通りに面して粗 末な石の門柱が口をあけ、門柱の一方に、トマトの夏に裁かれるM地方裁 判所R支部〉と、プレートがはめこまている。 木造モルタルの建物は古びて威厳もなにもないが、それでも訪れる者 を気さくに迎える風情ではない。 ここへ足を運ぶ理由がなんであれ、それぞれの胸のうちの錘をより重た く揺さぶる場所である。 さてまずはじめに、裁判所で働く人間がこぞって法律に明るいという わけではないことを思い知らされる。 カウンター越しに用件をいうと、職員はすぐさま後ろを見て 「課長!」と呼ぶ。 やってきた課長に用件をくりかえすと、信じがたい答えがかえってく る。 課長はなにかしら誤解している。 用件のポイントを強調する。 うなずいて、いったんむこうへひっこんだ課長が再度あらわれたとき は、分厚い法令集を携えていた。 「二階の部屋を使って、読んでください」 訴えを起こすにあたっていちおうある程度の知識は得ており、さらに その先へ歩を進めるために裁判所へ来たのであったが、あろうことか一歩 も二歩も押しかえされてにわかに疲労をおぼえ、やむなくひとり二階への 階段を上がっていく。 指示された部屋には入らず、二階ロビーの長椅子に腰を下ろす。 できることなら一分だって長居したくない場所に、まるでだれかと待 ち合わせをしているかのような自分を据えつける。 絶え間ない争議の るつぼであるはずの所内が森閑としている。 そう、どこかの壁の向こうでは、訴えたやつと訴えられたやつが死闘 をくりひろげているのだ。 その壁のひとつに風景画の額がかざられている。 たとえばロシアの田舎だろうか、雪が消え残ってぬかるんでいるよう な道と、葉のない立ち木、そして一軒の石造りの平屋建ての家の乳白色の