AImusiC 斬りぎりす
作詞/オーディオ編集:K.SichiRi
水系都市のエレベーター

街は冷たくぬれている
人は寒々 立ちつくす
忘れものでもしたように
水系都市のエレベーターが
ぬすみ見してる だまし絵さ
移り気もようの迷い路
ムダにまぶしい 行き止まり
すすり泣く声 さざ波は
だれの水切り 手なぐさみ
石のつぶての影がとぶ
水系都市のエレベーターに
乗れば さみしさ またつのる
魚の顔した 古傷が
泳ぐ心に 出口なし
ビルの森から抜け出して
クルーズ船が遠ざかる
森へ逃げ込む船もある
水系都市のエレベーターが
硝子のまぶた とじるとき
鉛色した 陽が落ちて
星は亡骸 夢の骨
水系都市のエレベーターは
つらい心の吹き溜まり
遊侠きおろし湊

生まれ犬吠 吼えつく波に
育ちはひたすら 眠り猫
目覚めて 気がつきゃ
さむらい捨てた はぐれものだよ
袖すり合うも多生の縁
おぬしは江戸の商人か
花よりだんごは いかがかな
目立ちたがりの 朱塗りの鞘は
正体 竹光 樫の棒
いわずもがなだが
枯れ木にあらず あなどるなかれ
やむにやまれぬ相手なら
余裕で刎ねる腕がある
いやいや ただの強がりさ
舟は乗合 大利根川は
木下湊の 岸につく
春ならなおさら
遊山の客の この賑わいさ
おぬし 鹿島へ船路なら
手前は江戸へ ひたひたと
わらじでたどる 鮮魚街道
鮮魚街道(なまかいどう)

雨がそぼふる 布佐港
馬が荷を待つ 濡れるまま
おれは雨戸を閉てなおし
灯のない行燈 腕枕
逃げてく先などありはせぬ
ひとり小舟を漕ぎ出せば
利根が三途の川になる
雨は馬の背 荷を濡らす
出を待つ鬣 凛として
逸 る足踏み 諫めつつ
馬方 しずかに 手綱とる
八里の旅行き 鮮魚街道
街道 にこぼれたイワシなど
拾う暮らしが身になじむ
雨にふくらむ 藁の屋根
土間のネズミが顔を出す
わが身の闇も十重二十重
雲間に日差しの夢あれば
明日への覚悟がもてそうな
傘を持たずに 柳まで
くさめ ひとつで引き返す
やくざな花で咲いてなよ

こんな荒れ地に咲くなんて
やくざな花だよ おまえって
無鉄砲すぎるぜ はらはらさせる
人待ち顔で さみしくゆれて
きょうもどうやら待ちぼうけ
せめてすさむな 咲き誇れ
おれも半端に生きてきて
気がつきゃいつでも前屈み
親兄弟に背中を向けて
世間のかたすみ うつろに歩く
ふっと路肩にたちどまり
おまえ見つけて つい ほろり
おれに情 を寄せたって
つかめる夢などありゃしない
おまえのかわいさ やさしさ 清さ
摘んでしまえば それっきり
やくざな花で 生きてけよ
いまはひととき 風ふたり
竹光塔婆(つなぎとば)

雨さわぐ
見かけだおしの サムライの
心の空ろに 雨さわぐ
行く手決めかね 街道辻に
立てば破れた 合羽にはらり
枯れ葉が情の 夢もよう
雨を斬る
但馬守なら いざしらず
刀で雨は 斬れやせぬ
切れず 残るは 腐れ縁
未練がからんで 命とり
賽の目 はずして 丸裸
雨繁吹く
背負った罪咎 そぎ落とす
罪咎 流れてどこへ行く
訊くも野暮だよ 跳ね返り
おれの背中へまたもどる
古傷ひらいて塩を塗る
雨たたく
季節つらねた 重ね着を
脱がして転がし 雨たたく
無慈悲 絵に描く 石に彫る
屍鞭打て 唾を吐け
竹光 が卒塔婆の おれの墓
斬りぎりす

おれは風
風のからだを さらにまた
つめたい疾風 が吹き抜ける
生まれはどこぞの木の根方
枯れ葉を酔わせて から騒ぎ
武士は名ばかり 流れ者だよ
おれは風
見栄の突っ張り つむじ風
情けに出会えば 隙間風
ススキくぐって月見酒
夜露に溺れる やわなやつ
抱いた刀に きりぎりすだよ
おれは風
ひとり迷えばすむものを
女人 を迷わせ 夢一夜
草鞋履く手を とめられて
このまま行こうか とどまろか
明けの東に 刺さる月だぜ
