AImusiC はてなのうさぎ
作詞/オーディオ編集:K.SichiRi
鮮魚街道

雨がそぼふる 布佐港
馬が荷を待つ 濡れるまま
おれは雨戸を立てなおし
灯のない行燈 腕枕
逃げてく先などありはせぬ
ひとり小舟を漕ぎ出せば
利根が三途の川となる
雨は馬の背 荷を濡らす
出を待つ鬣 凛として
馬方しずかに 手綱とる
生業 命と 十重二十重
八里の旅行き 鮮魚街道
道にこぼれたイワシなど
拾う暮らしが身になじむ
雨にふくらむ 藁の屋根
土間をネズミが 往き来する
わが身の闇を数えつつ
雲間に日差しの夢あれば
わずかに覚悟がもてそうな
傘を持たずに 柳まで
嚏ひとつで引き返す
やくざな花で咲いてなよ

こんな荒れ地に咲くなんて
やくざな花だよ おまえって
無鉄砲すぎるぜ はらはらさせる
人待ち顔で さみしくゆれて
きょうもどうやら待ちぼうけ
せめてすさむな 咲き誇れ
おれも半端に生きてきて
気がつきゃいつでも前屈み
親兄弟に背中を向けて
世間のかたすみ うつろに歩く
ふっと路肩にたちどまり
おまえ見つけて つい ほろり
おれに情(こころ)を寄せたって
つかめる夢などありゃしない
おまえのかわいさ やさしさ 清さ
摘んでしまえば それっきり
やくざな花で 生きてけよ
いまはひととき 風ふたり
竹光塔婆

雨さわぐ
見かけだおしの サムライの
心の空ろに 雨さわぐ
行く手決めかね 街道辻に
立てば破れた 合羽にはらり
枯れ葉が情の 夢もよう
雨を斬る
但馬守なら いざしらず
刀で雨は 斬れやせぬ
切れず 残るは 腐れ縁
未練がからんで 命とり
賽の目 はずして 丸裸
雨繁吹く
背負った罪咎 そぎ落とす
罪咎 流れてどこへ行く
訊くも野暮だよ 跳ね返り
おれの背中へまたもどる
古傷ひらいて塩を塗る
雨たたく
季節つらねた 重ね着を
脱がして転がし 雨たたく
無慈悲 絵に描く 石に彫る
屍(かばね)鞭打て 唾を吐け
竹光(つなぎ)が卒塔婆の おれの墓
斬りぎりす

おれは風
風のからだを さらにまた
つめたい疾風 が吹き抜ける
生まれはどこぞの木の根方
枯れ葉を酔わせて から騒ぎ
武士は名ばかり 流れ者だよ
おれは風
見栄の突っ張り つむじ風
情けに出会えば 隙間風
ススキくぐって月見酒
夜露に溺れる やわなやつ
抱いた刀に きりぎりすだよ
おれは風
ひとり迷えばすむものを
女人 を迷わせ 夢一夜
草鞋履く手を とめられて
このまま行こうか とどまろか
明けの東に 刺さる月だぜ
はてなのうさぎ

うさぎ うさぎ
のどかな午後は なに見てはねる
はんぶん欠けた 月見てはねる
あれはあたしの はがねの弓よ
あすもいのちがあるならば
ガラスのクツだと いうだろう
あさってならば おまえをつきさす
ナイフかドスか はてなのうさぎ
うさぎ うさぎ
さむけの宵は どこ這いまわる
竹やぶすぎて 松見てさわぐ
ぶらりさがって ゆれるの なにさ
カラスウリなら 赤かろし
猟師のシャッポは 黒いしな
もしもし松の 根かたで泣くのは
どちらのおかた はてなのうさぎ
うさぎ うさぎ
真っ赤な月は なぜなぜ赤い
もしやの火事か 火は消えるかな
燃えてふるさと 灰色けしき
あれは鏡さ 月じゃない
地球のどこかの火事なのさ
燃えているのは おまえの森だよ
おやすみなさい はてなのうさぎ
おやすみなさい はてなのうさぎ
Stumbling Bird

あたまを撃つよな雷 きいて
兇状持ちがすくむ
はたごの二階で ひる酒あおる
関所破りの たびの果て
ああ まるで八方ふさがりの
闇からいますぐ逃れたい
雨が降り出すまえに
方空ころがる雷またも
安宿 障子躍る
雨雲あつめて うず巻く風に
鳥が飛び立つ よろめいて
ああ わが身みるよな なさけなさ
もどれよ おまえの森の巣へ
雨が降り出すまえに
ああ キセル雁首 あんどんに
くぐらせ 火をつけ のろい酒
きょうも酒 狂い酒
月夜のつくね

つきよの つくね
きつねの くつね
そろえたままで
すがたがみえぬ
まさかのまさか
よをはかなんで
つきよの すすき
すきよと きつね
どなたを さそう
気になる かっぱ
よくきく くすり
ほらまたこぼす
つきよの かわで
かっぱが さわぐ
だれかが ながれ
たすけをよんだ
かっぱにまけぬ
およぎ手おるか
つきよの つくね
こざらの うえで
たけぐし さされ
つきみてないた
きつねがいない
かっぱがたりぬ
きしべの きつね
かわらの かっぱ
ねているふたり
おきろとわめく
きつねとかっぱ
ひとりはおきた
きつねとかっぱ
おきたのどっち
きつねとかっぱ
おきたのどっち
まさかのまさか
よをはかなんで
墨絵師

雨戸 夜っぴて 蹴とばしやがる
はだか馬やら 春の風
けさはウグイス となりの梅か
男 火打ちを カチカチ鳴らし
朝餉かまどの 煙に泣いて
絵にもならない
絵にもならない 絵師ぐらし
水の青さもも うろこの銀も
墨で描いて色匂う
扇子いっぽん ひらけば無限
恃みの絵筆に 墨ふくませて
きょうの命が したたる にじむ
夢が燃え立つ
夢が燃え立つ 花が舞う
破れ障子を のぞいた月は
雲をなびかせ 山にあり
よれた着物に ひしゃげた草履
無骨男の 気合は虎か
あすの屏風は 今宵の月を
添えて竜虎の
添えて竜虎の 眼に灯す
海さびてひとり

枯れ葉に埋もれた 小さな駅で
小枝みたいな 列車に乗るよ
メモも残さず 別れも言わず
ふたりのマンション 出てきたわ
うらまれようが かまわないさ
あたしは雪よぶ 風になる
雪を呼ぶ ああ
「傷つきやすい」と つぶやくクセが
似合いだなんて あのひとらしい
つらい 泣きたい あたしもおなじ
ことばにしない だけのこと
覚悟はできてる 過去は過去さ
はずした指環は 濡らさない
過去は過去 ああ
人影まばらな 浜辺の街は
潮の香りも 錆びてるみたい
一羽 海鳥 桟橋かすめ
みぞれがすさぶ 暗い海
ともしびゆらし 遠ざかるよ
あたしの哀しみ はこぶ船
遠ざかる ああ
タマネギえれじぃ

たまねぎ 泣いた
ひとを泣かせて また泣いた
声をころして ひとはかたる
ふかいかなしみを
じょうだんをひとつと いいながら
ひげをさらして また泣いた
あの世はあの世 いきていればこそ
たまねぎは しずかにきざまれる
たまねぎ 泣いた
ひとを泣かせて また泣いた
のどを刺すよな やせた月を
雲がかくす宵
灯明をともして ゆらゆらと
かたをゆらして すすり泣き
ころげていけば どこへ行き着くか
たまねぎは 親しくきざまれる
たまねぎ 泣いた
ひとを泣かせて また泣いた
いきる理由をもとめながら
きょうを あすからを
まっさおなほらあな のぞくよな
からの椅子みて また泣いた
朝告げ鳥のこえをききながら
たまねぎは やさしくきざまれる
