あついままでいてくれ 1/2





あついままでいてくれ




世間は、花ぐもりっ、と内またになり
春雷っ、とそりかえり
だがおれのところの台所では
産卵期のコーモリ傘どもがいまにも開きかけ
えごのきは神経質な枝さわぎ
幹のこぶというこぶに灸のけむを立ちのぼらせたりして
うっとうしく、くらい

窓のそとを、つん、とさよりが通る
すこしふとって、笹をふりふり
スーパーマーケットのガラスケースの赤い光をまとって
とりすましているが さよりはやはり
細身のほうが(おれは好きだな。
はらわたがくろいのは、いたしかたないにしても)
これみよがしのうしろ姿に キャベツをつぶし
胡瓜をひねる
ながねぎは、はずさない
ながねぎのふんばりがあればこそ、台所なのだ

ときに菜っ切り 出刃 牛刀と
きれいにそろえて思いのたけの血をそそぎ
まぼろしの家族を煮る(こんなぶざまをだれに見せられよう)
ぶらさがるのもいいけれど おまえだけは
いつまでも熱いままでいてくれよなっ、
などとたがいに強請りながらの団欒だ

雲が切れれば台所はボトルグリーンにそまる
苔類もいさんでにおいたち、睦みあう
通りすぎていったさよりだって しなったながいくちばしで