ハイ・ハイAに在り






唄が、あのかたを求める手つきになれば
かの詩人がよりたかく風船を打ちあげたように
もっとたかく声を放つ
上のA(アー)の、さらにもうひとつ上のAへと。
唄はもはや
声ではなく、風船のようなものとして
光さえ発して、大気をゆすり
ゆれる大気におされ
地にはじかれ
身をおどらせた水銀の蜻蛉よ
そらの青の微熱よ
さて休止符の闇をただようとき
鳥たちも暗黒にのまれ
いずれおとずれる音の転落に
身をまかすことになるだろう。
ものみな音とともに地に帰す、けれども
なんどでもよみがえる狂乱があり
陽に灼けたちいさな
八分音符みたいにやせたからだと
弾む息だけの唄は
あまたの耳をあたためようとして。
耳よ、耳よ、あのかたの耳よ。 


 *ハイ・ハイA(アー)=五線譜中央のラ(A音)から2オクターブ高いラ。
 Aの上に点をふたつ(‥)つけて表記。