居残りくもがた



雲形定規には陽が昇らない
朝ぼらけもなければ夕まぐれもない
けれども雲形定規は陽あたりのいい部屋にあり
仕事ひとすじの男の寵愛をうけている
出番の頻度でいえば
縮尺定規や三角定規にはとてもかなわない
型抜き定規とくらべても
まだ少ない
だがいったん持ち出されると
製図台いちめん
豪雨のあとのようにしてしまう

楽器もこなす繊細な手でかきあつめられ
木函に寝かされ
雲形定規は机のひきだしにしまわれる
男は雲のない机をはなれ
墓地のみえる窓をとじて焼酎を呑む
たたみの隅の小さなテレビは
目にさだまらない画面をうつし
はしゃいだ声があしたの天気予報をいっている
そうかい、この世のはじまりは冬晴れかい
焼酎に酔い
やがて、ひきだしのおくから
予期せぬ雨音がきこえだし
傘のかわりに紐を手にして
決然と立ちあがる
一月三十一日、ときは、満ちた
男は雲形定規となって
板の間の梁に突き刺さる