活着せず



あの夏のすごしかたを
この夏にあてはめて
みずいろの如雨露には
みずを
錆びた五徳には執念の
火を
つまり平凡な日々を折れていく
指の爪はわずかずつ
生気をとりもどし いっぽう
湿っぽいうらの出入口では
くちびるから色がぬける
ガラスのふたのわずかなずれが
行く手をさえぎり
植物群をねむらせない
昆虫たちの
時を食む音もしだいに大きくなり
いずれのうつわも
いびつによりそいながら
うらぎり チョウのさなぎが
腹から生きたハエをしぼり出す
爪、くちびるに
たかるたそがれ
この世につながっているとすれば
吐き気ものか
おれはふらふらと
悪夢の夏をたたみかけ
はたして身は活着せず
かの夏のままに
液状の眼をひらく
撃てどもたおれぬ
つららのように凍ったせなかへ