つめたいままでいてくれ



いくつかの球が入り乱れて
かたちが整わないトマトのようでありたいと
身のほど知らずの青くささを
竹ざおにからげて
日々は暮れたか
畏れ多くも
トマトだぞ
と威張らないまでも
ひゃっこいトマト
とだれかがつぶやくたびに
居ずまいを正したずるさ いや さびしさ
そんなトマトに囲まれて
おれたちは育った
やがてあさぎ色の肌にゆっくりと
日の出の赤をにじませて
烏を叱り盗人を脅す
親たちのいさかいのまいにちが
かくもなつかしくなるような
時のうつろいを
おれたちはすごした
トマトはトマトで
だれの綽名にもなりえなかった名を
ひそかに固守して
ガラスの小皿のうえで冷たい汗をかき
いまにもどこかへころがっていきそうな
輪切りだが
ちょっとひっこんだ骨の向こう
これ見よがしに
血をどろりと光らせて
おれたち畜類の食欲をそそるのだ