残光あり



死もにおう川へ
ひさびさのてのひらを
置きにきたが
だれぞの名をつぶやく虻が
岸辺の花いちりんにおぼれたか
もどってこない
ひるさがり
(そんな称号のひとときもあったのだ)
川にあてがうはずのてのひらを
かざして陽をよけながら
影は伸び
伸び続けるままに立ちつくす
たしかに におう
砂になかば埋もれたロープにも
陰、ひなたは生じ
周縁をめぐって
かけぬける湿気にまじり
架空であるなら架空であれ
におう黒橋をわたって
逃げていく男の
首にかかる
湿りけの
においの
てのひらの
うすさに
透けて見えるのが
おれの残り姿か