■天ぷらそばを待ちながら

蕎麦屋のたたみで 蕎麦待ちながら
格子戸 細めにあけて見る
外はしのつく雨がふる
ずぶぬれ男が 堀端の
柳くぐって駆けぬける
なにをしでかし どこへいそぐか
見かけぬ顔だ… 捕物帳が
始まりそうだが 空きっ腹
たのんだ蕎麦は まだかいな


蕎麦がくるまで 板わさつまみ
蕎麦前 呑みつつ いましがた
消えた男の 覚え書き
三十路も半ばで 痩せぎすで
肌は浅黒 太刀持たず
やくざな風情 もしや商人
どしゃ降り雨に… 十手の出番
なければいっそ さいわいさ
てまえの蕎麦は まだかいな


蕎麦屋は繁盛 煮だしの匂いに
どっぷりつかった 客たちは
走る男にゃ気がつかぬ
雨脚 町すじ 煙らせて
うどん一尺 蕎麦八寸
尺五の十手 胡坐に抱いて
蕎麦屋はやぶで けっこうだけど
目明しさんには やっかいさ
てんぷら蕎麦は まだかいな