■素浪人残夢抄







男のせなかをやさしくはたく
女の手のような小雨なら
 ふらりと町屋へ参ろうものを
 黒雲 ずしりと 重たくたれて
 くるかな土砂降り やむなく畳に
 ごろ寝の 草双紙


 目ざめりゃ枕は どこかへ失せて
 はだけた胸に 畳の目
だれぞに追われる夢なお残る
 ひまでもやたらに 腹減りやがる
 ふらふら身支度 いそいそ路地ぬけ
 くぐるは 縄のれん


掛売無用の木札をにらみ
鐚銭拝む素浪人
 余裕の顔して ひやさけ熱燗たのむ
 ひさしをポツポツ雨打ちはじめ
 帰りは借り傘 めし屋のふとぶと
 「めし」の字 さしてゆく