男のせなかをやさしくはたく
女の手のような小雨なら
 ふらりと町屋へ参ろうものを
 黒雲 ずしりと 重たくたれて
 くるかな土砂降り やむなく畳に
 ごろ寝の 草双紙
 目ざめりゃ枕は どこかへ失せて
 はだけた胸に 畳の目
だれぞに追われる夢なお残る
 ひまでもやたらに 腹減りやがる
 ふらふら身支度 いそいそ路地ぬけ
 くぐるは 縄のれん
掛売無用の木札をにらみ
鐚銭拝む素浪人
 余裕の顔して ひやさけ熱燗たのむ
 ひさしをポツポツ雨打ちはじめ
 帰りは借り傘 めし屋のふとぶと
 「めし」の字 さしてゆく