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雨氏の本は開かれたままだ

詩:七里


●嗤い柘榴






去りゆく夏をごくりと呑んで
息をとめ
ザクロは大口あけてわらった。
悪魔みたいに大口あけて
ザクロがわらった。

わらいのツボにはまったわけなど
知るもんか。
ザクロはころげてわらい
皿から落ちたよ。
飾りに添えた笹の葉っぱは
ウサギの耳だ。
ウサギの耳を覗いてみれば
火の海さ。
皿には記憶の竈。土から瀬戸へと
生まれ変わりの熱気を浴びて
フロアに伏せった。

わらいごえを聴きつけて
おまえは ひげをそったけど
顔は見せなかったな。
わらいごえを聴きつけて
靴を履きかけたけど
ドアをあけもしなかった。
たかが ザクロ
というわけだ。

通りがかるだれかが
つられてわらう。
わらって逃げた。
わらいざくろは




疲れてふいに無口になった。

ハキケニハキケ
ハキケガハキケ
ハキケモハキケ。

大口あけて夕焼けを
吐き散らしたな。
秋たけなわの
生まれ故郷に
つぶつぶざんざ
夕焼けひとつ。
生まれ故郷に
つぶつぶざんざ
夕焼けふたつ。

おれの天使よ
無事でいるなら
鼻をつまんで
帰ってこいや。

動画:FC2動画YouTube

●雨氏の本は開かれたままだ








テーブルに頭をころがして
読書の檻から
首尾よく脱出したらしい
雨氏の本は開かれたままだ

窓枠の影がゆっくりと
見ひらきのページを掃いてゆく
じつに鈍足なワイパーだが
どんな力もその動きを停められぬ

残された雨氏の頭部は
余白ばかりの読書の檻で
ぬめるサンショウウオ
こぼしたコーヒーのようなものへ
なりを変え

帰宅した家人が
壁のスイッチを押し上げて
雨氏と密会中の夕闇を
部屋からたたき出す
雨氏はあわてて頭をひきおこし
かすれたのど声で
おかえり、という。

動画:FC2動画YouTube

●棒



おれは棒だ
ここで折れろといわれても
折れるひざのようなものはない
ひたすら棒だ
融通の女々しさとは
共生できぬ
やくざな棒だ

たとえ助けを乞われようと
つっかえ棒だの
ロープ代わりなどに
なれるものか
ましてや まるごと
棒を貸せるわけが
ないじゃないか

逆立ちしても
寝ころがっても
宙を飛んでも
棒のままだ
乾湿不問の棒だ

ときに ひとは
藪から出てきたと おれを
化け物あつかいするが
藪から棒 といういいまわしには
ちょいと興をそそられる
としてもだ
勝手に棒を持ち出すな

むやみにおれに手を出すな
握られる弱みなど
あると思うか
弱みがあって
棒でいる
と思うか
棒の矜持を
おまえは あたまにでも
喰らいたいのか。