鰐組


小説を歌にする試み  2024


★ジャメイカ・キンケイド「娘」柴田元幸訳より
 構成・作詞:仲山 清
 作曲・歌唱:Suno AIによる自動生成/一部加工

●音量にご注意ください!

 ベンナなんて歌わない
  


白い服は月曜日に洗って石の上で乾かすんだよ
色ものは火曜日に洗って洗濯ロープに干すんだよ
暑いひなたを帽子なしで歩くんじゃないよ
したばきは脱いだらすぐ水につけるんだよ

おまえ日曜学校でベンナを歌っているってほんとかい?
日曜日にはちゃんとレディらしく歩くんだよ
あばずれみたいにじゃなくね
おまえはどうあっても
あばずれになる気でいるみたいだけど

波止場ゴロの若い男と口をきくんじゃないよ
道を教えるだけでもいけないよ

でもあたし 日曜日にベンナなんて歌わないし
日曜学校でなんかぜったい歌わないわ

*エンディングのフェードアウトは自動生成ではなく、手を加えたもの。


 ペッパーシチューのつくりかた
  1~3それぞれ異なる曲です。

  
ペッパーシチューはこうやって作るんだよ
風邪によくきくクスリはこうやって作るんだよ
子どもが子どもになる前に捨てるクスリは
こうやって作るんだよ

魚はこうやって釣るんだよ
いらない魚はこうやって戻すんだよ
そうしないとたたりがあるからね

男に威張るのはこうするんだよ
男はこうやっておまえに威張るんだよ
男を愛するのはこうやるんだよ
それでうまくいかなかったら ほかにも手があるからね
それでもだめなら くよくよしないで
きれいさっぱりあきらめるんだよ

パン屋がパンに近寄らせないような女になっちゃいけないよ


注釈
*ジャメイカ・キンケイド:1949年西インド諸島アンティグア生まれ。
*ベンナ (venna または ditti) 
 アンティグア・バーブーダ音楽のジャンルの一つ。カリプソに似る。スキャンダラスなゴシップとコール・ア
ンド・レスポンス形式が特徴。奴隷制の禁止後に初めて登場し、20世紀初頭に民間コミュニケーションの一形態
となり、地元のニュースを島中に広めた。黒人抑圧者を批判する歌も流行。1950年代まではこの地域の世俗音楽
の主要なジャンルだったが、その後、カリプソに人気が取って代わられた。

 ジャメイカ・キンケイドの『娘』は文庫で3ページの短篇。母親が娘を口やかましくしつける言葉でつづられ
ているが、二箇所、娘の反発の言葉が出てくる。歌詞にした「日曜学校でベンナなんて歌わないわ」という個所
と、パンを買うときには新しいかどうかつまんで確かめるんだよといわれて、「でもパン屋さんが触らせてくれ
なかったら?」との文章。母親の答えはこうだ、「じゃあ何かいおまえ、あたしがこれだけ言ってもやっぱり、
パン屋がパンのそばに近寄らせないような女になろうってのかい?」ここでこの小説が終わる。
 歌詞ではここを「パン屋がパンに近寄らせないような女になっちゃいけないよ」としているが、自動生成でこ
こまで入った曲は、よけいな、わけのわからない語尾が加わっていて歌がぶち壊しになっている。無料で使用し
ているので、1曲1分30秒が限界である。曲の終わり方がおおむね雑なのは、時間の制約のせいかもしれない。
 もしこれが菅啓次郎の訳であったら歌にしようという気は起きなかったかもしれない。柴田元幸訳で「~だよ」
などと話し言葉になっているところを、菅訳では「~すること」などと箇条書きふうになっているからである。
 ついでに言うと、訳語ベンナにカッコつきで(カリプソ)と添えられていて違和感がある。(菅訳『川底に』所
収「娘」平凡社1997)