豚のためのミサ曲

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 豚のためのミサ曲


豚が空を飛べるようになるまで
愛していさえすれば豚も
大根ほどには痩せるだろうし
神だか鬼だか痩せた欲望に
翼を授けるだろう
大地を走りつづける駝鳥は
はてしなく豚だが
孔雀さえ見かけだおしの
尾のむこうで豚だが
豚が耳を落とし
鼻をつめる分厚い生坂をこそ
畏れねばならぬ
教区にミサがながれ
晴れた屋根の上の豚
風の藤棚にひそむ豚が
風切を繰り 飛び立つ午前に
式を挙げよう (せめて指環のための
指はのこりますように)
どぶ泥をどよもす鐘が打たれ
魚肥にまみれる初夜
あすはだれに抱かれようとも
距爪のはしった肌をかくし
豚のいない大まじめな空をスジと
皮になるまで見ている
花嫁よ
あれほど信仰された豚が
たんぽぽと飛び去っていま
だれの冷凍室に吊るされているか