函

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 函



ふたも 底もない
ほんの気持だけの函をつくる
愛せずにぼくがそだてる釘は
経文のようにだらだらとながく
そろって板の意表をつきぬける
四枚のむきだしの沈黙が
うっすら深まる四隅で
忍び笑う声もあり いたたまれず
さきを争って錆びつくものもある
羽目板や どぶ蓋なら
息絶える街まで
むじゃきに吼えていけたろう
くされ縁なら腹いせに
蹴りぬくこともできたろう
見えすいた函だが
釘さえ ぬかれでもすれば
ふたたび顔をあげず
みずからをつぶす覚悟だ
よろしい 四枚の板が背を向けた世界で
ぼくはかなづちをとる