センチメンタル・ネギ

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 センチメンタル・ネギ


葱は泣いた
固唾をのんでひとが出ていく
不祝儀な夜の廂から
いきなりくすぐったい話の
ひげをさらして
葱は泣いた
泣きながら ぴしりと伸びた
まっさおな空洞を
葱は呪った
鳴咽だけが引返してくる空洞を継いで
あなたにもゆくりなく
鼻につんとくる夜は
台所はなんと
陰湿な塔となり
はるかに聾え立っていることだろう
だれかがまた固唾をのみ
あなたがこらえきれず笑いをもらすところに
杭がうたれ
鞭が霧をくゆらせてい
葱は泣いた
月がかかるのど笛を刺して
葱は泣いた
血と 土を吐きもどし
すこししびれた葉末をふるわせ
もはや何者にも朝を告げぬ
生坂にすがって
泣きじゃくった
冗談だったあれから
鳥肌立ったままの凄惨な風呂あがり
他人のあなたに
葱はふかくきざまれたか