銭湯

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 銭湯


おれの人生の唯一で贅沢な悦びは
週一回の休日 午後三時に
一番乗りで銭湯にはいること
がらんとした脱衣場で
ちゃちな怒りや悲しみを脱ぎ捨て
純粋な蛋白質にかえる
じょう舌な湯気を黙らせにさっそうと
湯につかっては分解しそうなのをこらえてじっと
傾きかけた陽が
膨大な曇りガラスをおびやかして
ずばぬけた明るさ
湯と石鹸と午後の時間を存分に浪費し
ありふれたからだを磨く
陶工のようにきちょうめんに
馬喰のようにあらあらしく
鏡のなかには なかなかの男前がいて
眉をうごかしたり めつきを鋭くしたり
コブシをきかした唄もでる
おれの人生の唯一で贅沢な悦びがきわまり
ふたたびちゃちな怒りや悲しみを身につけて
まっさきにおもてへ出る
だれもがまぶしげに見る
赤みがさした顔に それでも苦汁のしみが甦るまでに
たっぷり二時間はある