悪事を語りあうぼくらに快適な場所


■高度な機密性のためにありえないことだが、ドアの隙間から朝陽がさしこむようにぼくらはここへ<侵入>する、ただ漫然と立ち入るのではなく、児戯にひとしくつたないながら悪事を語る用意をする、

■おしゃべりに花が咲くというが、ぼくらはまさにここで花咲くのであり、女々しくも猛々しくもめしべおしべとなって陣を組む、

■パイプ椅子のパイプにぼくらの手足がからみつく、つる性植物よろしくからみついたまま伸びちぢみする、ぼくらに花が咲く、

 

■日没にさしかかると、わがくにの山川草木が朱に染まって窓からなだれこむ、かの詩人がいうように、なにかがはじまるにしてもほんとうのおしまいがくるまでのはかない時間の出来事である、わがくには日没である、

■ぼくらの手足も折りたたみ式、四肢を部屋のすみに立てかけたままうっかり旅へ出てしまう友もいて、そのごかれの姿を見ることはない、

 

■はかない出来事、はかない時間、そういうことどもにさしはさまれたゆるぎないものが敷石のように並んでいて、ぼくらはそれを踏んでは跳び、跳んでは踏み、つまずくのを恐れもせずたまにはふりかえる、

■いま、悪事を語る快適な場所に、ぼくらはいない、いずれ悪事を語るのに快適な場所はなくなり、善行におぼれる悪所が蔓延するだろう、

■すべての足跡を抹消すべくシャッターを下ろし世界を更地にする。