ヘボ将棋
足の親指の爪をやったのは先週
つまらぬものを磨いていてつい力が入って
割っちゃった
なにを磨いていた
いいたくない 女房の持物だ
生えかわってもいやな形に
いやな雨だ
生爪がはがれそうな気がしてくるか
はがした足が脛まで明るくなってますます寝つかれない
「からだがメディアだ」なんて
競輪もよくいうよ
ごろごろいってる
雷は、聴えない 空耳だろう
雨そのものがうなってる 岩をころがすみたいに
トロッコかな
あ、森林鉄道だ そんな名前の雨だ
つきあっちゃおれん
ヨシコが源氏名で 本名はリカなんだ その逆ではない
父親が軍人、で、亜米利加の利加とかく
そう明かしたんだ
な、わかっちゃうだろ だいたいのとしが さ
父親ってのは売国奴かい
訊くんなら女との関係のほうにしてもらいたいな
うっかりすると二十代にみえちゃうんだから
雨が縫い目にみえるなんてセンチメンタルな老化現象だ
ところどころにむすぼれができていてぶらりぶらり
手の込んだ雨だ 気色わるい
旦那ってのが楊枝を手放せない 蒲団の中でもつかう
ぽっかり穴があいている歯が何本もある
どうしてふさいじまわないのだろう 抜くとか
うつらうつらしていて ぷすっと
ここにささっちまった 首の、このあたりに
必殺仕掛人だな
仕掛けたってそうそう刺さるものではないだろう
で そのだんな
ぴんぴんしているさ
なんだ いや しゃれじゃない がっかりだ
雨は世界の爪楊枝
ってのはどうだい
鐘、一つだな 鳴らしたくもない
あまみずってのもだらしない
自己嫌悪に陥るんだな 鬱積する
脳がやぶれる そのうち
似ているね 爪を切る音に
これあ 爪そのものだ
人のではないな
黒いマニキュア
いや こうして成れば赤だ
え、おい、ちょっと
だめ
内の娘ときたら……
マニキュアをする年ごろ、というわけか
そうじゃないんだ そんなことではないんだがね
1984.11 Nil≒Neant4号「森林鉄道という名の雨が降る」改題、改稿