2026

雨氏の本は開かれたままだ





テーブルに頭をころがして
読書の檻から
首尾よく脱出したらしい
雨氏の本は開かれたままだ

窓枠の影がゆっくりと
見ひらきのページを掃いてゆく
じつに鈍足なワイパーだが
どんな力もその動きを停められぬ

残された雨氏の頭部は
余白ばかりの読書の檻で
ぬめるサンショウウオ
こぼしたコーヒーのようなものへ
なりを変え

帰宅した家人が
壁のスイッチを押し上げて
雨氏と密会中の夕闇を
部屋からたたき出す
雨氏はあわてて頭をひきおこし
かすれたのど声で
おかえり、という。