舟に乗ろうとする複数のわたし
ひかりを屈折させて
さらに屈折させて
そうしてこしらえた
舟なのだろう
底がぬけているようだが
浮いているから
舟なのだろう
乗ろうとするわたしの
背なかを吹きぬけて
わたしが舟に乗ろうとする
そうして次からつぎへと吹きぬけて
わたしは行列になったようだ
こんなにいては
なんど往復しても
向こう岸へはこべない
舟がもたないだろうし
積み残しがあるにちがいない
背なかを吹きぬけるくらいだから
舟など乗らずに
といいかけて
芦になった
次からつぎへと芦になって
けっきょく舟は岸を離れられず
わたしたちも岸にとどまった
ひかりを屈折させて
さらに屈折させて
二度と舟にならないように
たましいみたいなものを
やみへ沈めた
複数のわたしのあしもとで
夜のさかなが
うろこをいちまい光らせた