潮来街道



町はほろびて ひとけなく
ひとだまばかりが
肩をぶつけあうにぎわい
潮来街道

江戸から東へ
からさわぎの祭をつらねて二〇〇年
関東平野を起伏なく
ひたすら顔ふせて潮来街道

田は涸れても
江戸の水路を忍ばせて
消え入るばかりの土地の名をつぶやくように
アオサギがひっそり風を編む

さらに東へ 水の郷へ

ひととき おんな文字の雪が舞い
雪げしきとはならず
背筋を立ててせりあがる沼もあり
すれちがってゆらゆら
水にうつるのは俳諧師それとも絵師か
わらじ食いの血がにじむ
つま先にはじかれた小石の波紋は
とうてい沼を渡りきれもせず
ゆらゆらと牛堀の牛の背を
超えたむこうに橋と土蔵の潮来
たそがれの家もまばらにさくら川
舟もやう桟橋に刺さった夕べの月に
ふるえながらふりむけば
潮来街道 さくさく
霜をふむけはい

からさわぎの祭も絶えて
ひとかげもなし
さくさく 骨をふむけはい
関東平野の向こう傷
起伏なくひたすら顔ふせる
潮来街道

夜となってさらに東へ
水の底へ
かすかに泡たてて
祭囃子がきこえはじめる