重機がある風景


キクイモの花のむこうはかすんでいるが
重機の鉄のながい鼻が空中を嗅ぎまわり
うごめいているのがわかる
鉄の鼻はあおにびいろで
すでにシムノンさんの木造平屋建てをつぶし
廃材の山にして
いまではそれも片付けられ
更地になっている
わざわざ確かめにいかなくてもいい
キクイモの花の群れを見ているだけでいい
でも、シムノンさんの引越し先はわからない
あるいは、わたしが知らないうちに
亡くなっているのかもしれない
そんな歳だもの
でもあたりまえのように秋の陽がそそぎ
丈たかく 強靭な立ち姿で咲きほこる黄色い花が
わたしの住む変哲もない町の風景を
いっそう通りいっぺんのものにしている
そうしてシムノンさんのお宅と同じ運命をたどり
町ぜんたいが 黄色に埋もれて息絶え
花が終わる冬には
町は脱色した芋になっているだろう
わたしは虫けらとなって
芋にたかり むさぼり食らっているだろう
いま 風と重機とキクイモと
そして空腹な男ひとりが
秋の風景としてバランスよくつりあい
であればこそ生と死もまた
均衡を保って赤とんぼのように
わたしのひたいの先にそっと浮かんでいるのだろう
ながい鉄の鼻の動きなんか無視して