寒の川
さぎは川から大気から
もやをあつめて編まれたもののように
白くゆっくりふくらんで
川面にかがやいている
かがやいているというだけで
かたちさだまらず
水の深さを測り
脚はしなやかに伸びるけはい
水面下で破裂している水泡にも
神経をとがらせているらしい
湾曲する岸辺に倣ってゆったりと
ながれる水に
水の門はひらかれ
灰色のコンクリートの太い蹲踞が
ながれをよどませて
冬日のさみしい影は釣りびと
ころがり 老いさらばえて
北関東の風景からも
とおからず剥がれ落ちるのだろう
さざなみが右手の橋をくぐる
いくつもの橋が
川を時間の外へつまみあげようとする
わすれかけていた釣り糸が
朝のひとときを分断する
しぶきの尾を引いて
浮子の赤い点が水面から跳ねあがる
さぎのくちばしが波紋を撃つ
誇らしく頸を立てて
さらに岸辺のひとを撃ちつづけ
冬晴れのそらにするどく閉じた生傷から
光のうろこを寒気に散らす
やがて予期せぬサイレンが
水門管理棟から流域にあふれ
ひとのざわめきがたちのぼった
持つ手のない釣竿が岸辺をあゆみ
みずからを戴くはかりの針となって
ゼロへと傾きはじめている