カタコトの日本語で割れる卵について


人々の想いをなめして
緑になった
濃い緑あわい緑
熱い緑 凍った緑
十重二十重に編みこまれて
稲田となり
川すじをつけて
かたむいた
ころげおちていくのは
だれの長靴
すこし湿った足さきが
残っているようななまぬるさを
関東平野の風がまきあげる
梅雨は明けたし
もうそろそろ
ひざなどつきだしても
いいころじゃないか
あれこれ納得して
 


ひざを打とうじゃないか
だが あふれる想いを
おれも人なみになめし
ひざもことばもつかわない
緑になめされた土地に立つ
見渡すかぎりの濃い緑
凍った緑
正面に農夫の丸い背中を
鶏卵のようにおいて
稲田は果てしなく広がり
アメリカのどこかに似てきたか
気がつけば
カタコトのニホン語で
たまごが割れる
あたためてくれるものがまだあるんだな
卵黄のような夕焼けも広がり
片長靴のおれも黄いろく染まって
手をふりかければ病気かな かたむきかげん
関東平野に立ちつくす