2026

風、ふたり


舟にのって どこへ
行こうとしていたのか
舟にのりそこなって
地団駄をふんでいるところで
風はまどろみからさめた
川岸の木の下で。

舟にのせられたひとは
あともどりができない舟のうえで
だれに向けてか
骨ばかりの手をふった
ふいていない風を かきまわして
あわをたてるみたいに。

目をさました ほんのはずみで
風は見も知らぬ いちまいの
しめった白いほほをなでた
しめったほほのひとは
舟のうえの手にこたえて
手をふろうとしたのだが
だれかに頬を撫でられた気がして
さいごの挨拶は
かなわなかった。

風は痩せさらばえたからだをねじり
なにかにすがりつきたかった
願いは むこうからの願いと入れかわり
白いほほのひとの手が風にすがった
このひとの手も骨だった
手をにぎりかえして 風はつい
ストローみたいだね と
ざれごとをいいそうになった
予期したとおり
じぶんが吸われているのがわかる
もうからっぽなのに。

「あなたも 吹きやんだ
 風なのか」
たがいの問いかけが
おりかさなって たがいを閉じた
風のない川岸で
風、ふたり