バールを手にした和尚さんが


バールのようなものさえあれば
バールはいらない
バールのようなものでじゅうぶんに
ひとのあたまをなぐれるし
どっかの金庫や自販機だってやぶれるだろう
バールなんかなくっても
ようなものでじゅうぶんなんだ
というヘンなお経をおえて
延長寺の和尚は骨壷を喪主に託し
そそくさと本堂から姿を消した
かとおもうと
墨染め衣を風でふくらませ
だれよりもきびきびと
はるこがねばなの春の黄金をくぐりぬけてきた
さっきまで木魚をたたいていたバチの手に
いまはバールのようなもの
ではなくて
正真正銘のバール
石屋さん呼ばなかったの?
とだれやらしのびごえ
石屋を呼べば手間賃とさらに心づけ
カロートはコンクリートのふたをあけて壷を納め
ふたをもどすだけのことだ
バールを受けとった男が
喪服の上着を脱ぎ
なれぬ手つきで(あたりまえだ)
コンクリートを砕かんばかりの力づくとなり
いらぬときに目を覚ますやつがいるかも知れず
まわりの者たちはひやひやしたが
ふたはちゃんともちあがり
くらい風もたちのぼる
ひと安心の参列者は身もかるく
あの世の入り口へこぞって殺到したものだ
ふたたびバールを手にした
和尚がうしろにいることなんか忘れ
あら、ここ、二段ベッドね
和尚はといえば 手もとがくるい
みずからぱちんとはじけたのだった