龍街道
風にはためく赤い幟は
〈古酒、量り売り
まぼろしの熟成古酒 双つ龍〉
はためいているのは龍街道
江戸から十三里
水戸街道を右にそれ
川のほとりに出たたびの人
この堤の道が、龍街道
いにしえの船路を陸路に変えて
葦はらは海のなごり
街道の名を刻む道しるべのかたわらで
片ひざついて草鞋の紐に手をやれば
悪霊死霊のたぐいのしわぶきか
かん、かんと辻堂のかねが鳴る
やがて、洪水の記憶をゆさぶる地響き
名を残すのみの街道をひた走る早駕籠
蚕飼川が流れをわけて
川の名を分かち、橋をわける
櫓をきしませて塩を積んだ荷船の帰るさきは
流れの親の絹川(花ざかりの港)
見渡すかぎり田畑の北にははるか、つくば山
聞こえもせぬが、さらさらと恋瀬川の帯を解き
男体女体、青くすきとおって睦みあう
ひとり身には、いささか目の毒
かぶりをふって想いをいたす、
俳聖芭蕉の沙汰も聞こえた昔の
商業町、おらが龍ケ崎
目の前に広がるのは、大火のあとの焼け野原
はたまた焼け野原を一夜にして白金にかえた大雪か
大地に銀、天に玉つめたくもうるわしき将棋指し
だが、おれらが土地の三吉よ
つまった一手が龍の角とるあだとなり
夢もかじかむ霜月に、路頭に迷った下駄屋もあった
ふところの将棋の駒は飛車いちまい
裏はくずし書きの、赤い龍
飛車ならせめて風にのれ
かん、かん、辻堂のかねが鳴る
たしかにあれも江戸からの客
命、量り売り、買ってくだされ
大した品でもないのにやくざ風情に声かけて
相手にされず、赤ら顔の
幟ばかりがふらふらと、まぽろしの
龍街道を歩きだす
名ばかりの街道ゆえに
行くといっても、あてはなく
風やんで、ふぬけの龍がいっぴき
また、へたりこむ土手の草