水系都市のエレベータ― 


水系都市のエレベーターが
しずくを落としながら
夜空を這いのぼる
月も星もない
たどり着く場所など
きめてもいない
乗り込んだひとたちが 異常に気づいて
ドアをたたき 床を踏み鳴らす

水の上のひとたちは
暗い夜空に にぶいひびきを聴く
どこかで花火でもあげてるのかしら

水辺の貝殻ふうの音楽堂のめぐりを
高速道路がゆきかい
帯状のヘッドライトがからみ
建物群を色とりどりに染めている

音楽堂では
オーケストラのチューニングが始まる
わたしはただ 天空にある音楽を
書きとめているだけなのです
ステージの作曲家が 謙虚を装って
語りだす 若いけれど
しわがれた声で

都市の夜空を突きぬけて
音符のみえない五線譜が立っている
それはまるで 消えかかる
墓標のようでもあり…