風の修理屋


風の骨組みを
ゆるめて きょうは
はずした木ネジを
ホトケノザの花むらにころがす
ゆるんだところから
逃れようとする風があり
骨組みがぐらつく
 すこしは いうこと
 きいてくれ
みじかいあいさつに
顔を上げ
迷った老夫婦に
枝垂桜の咲く寺の方角を指す
何本もの杖に支えられた老木は
これも骨組み 見るに堪えぬが
春には見物客が訪れる
気むずかしい埃をはらって
木ネジがあったところへ
木ネジをもどし
釣り糸のような神経があったところへ
神経を からめもどし
野に放つ
野は いつでも
どこにでも広がるもので
忘れられそうな
枝垂桜の咲く寺
野ではなく
町はずれにある
風の修理屋みたいな男に
出逢ってさいわい
直したての
風に案内させますよ
きっかり
山門まで

            2022.12.18