ザクロの絵 知り合いの画家が描いたザクロが、わが家のテーブルにある。絵 の具が乾ききらないままで。 画家の家で見せてもらった未完成の数個のザクロは浅い竹の籠に 入っていたが、そのうちのひとつが、小さいガラスの器にちんまり と収まっている。 ザクロは半ば口をひらいていて、得体のしれない動物の歯のよう なものが、すこし血をにじませてびっしりと生えそろっている。 すてきね。 画家のアトリエで、心底そう思って画家に言ったのだが、画家は 一介の主婦の感想なんてどうでもいいというように、外を眺めてい た。 冬ばれの陽の光が、すっかり葉を落としたハナミズキの枝に突き 刺さっていた。おびただしい実が真っ赤に光っていた。このままク リスマスツリーになるわね。言えば笑われるにちがいないことを胸 でつぶやいていた。赤い実はクリスマスを過ぎても赤いままでいる はず……。 ガラスの器のザクロの裏側をおそるおそる覗いてみた。キャンパ スの布地なんかではなかった。 うらがわも立派なザクロだった。絵の具が乾ききらないままで。 あのひとは天才だ。