ぬれていてくれ 1/2





ぬれていてくれ




おれは今夜も火を放つ
部屋をつらぬき流れる河に
土焼きの容器を浮かべて
器の中では鵞鳥の肝臓がとろけはじめる
死ぬほど太れと育てられて肥大した肝臓は
セ氏80度で もろくもとろけるしろものだから
火の手を間引き にぎりつぶす
おれの躰はといえば全身が鴨の肝臓
たかだか40度でとろけだす
平熱から死へ セ氏4度弱
おれは火を憎む放火魔

冬晴れの午後
北風が関東平野の霜をゆりうごかす
ひろい河のおもてには点々と
まるでおれの魂をころがしたみたいに
黒焦げの鴨たちが浮いてじっとしている
(セ氏40度でとろけだす肝臓も いまは安泰だ)
しかし河はゆるゆると流れ
水中に焦げ残ったももいろの足は
みずからの位置を保つために絶えず水を掻きつづけている
かの真夏日をいくにちも耐えてきたのだから
いまは長い休息が必要なのに

今夜も火を放つ
部屋をつらぬき流れる河に土器を浮かべて
けっして燃え上がってはならぬものを
熱くするために 溶かすために