カエル 3/3
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れないが、小ぶりの魚といえばクチボソの影だ。
 それなのに、なんと……と絶句してしまう。
 頭のなかをメダカの群れでいっぱいにしてきびすを返し、観察園にもどると、
こぶなの流れへとむかった。学校は夏休みに入っていて、たまにこども連れが
ちらほらみえるが、ぜんたいにひとけがない。正午という時間帯のせいもある
だろう。こぶなの流れのほとりにはあずまやがある。そこにひとがいるのもい
まだかつてみたことがない。 
 二人の女の子を連れた母親に出くわし、たずねてみようという気もおきたの
だが、しかし気持をおさえて正解であった。
 <カエルが水の音を立てるのを聴いたことがありますか>
 見ず知らずのひとに対して、これは、いかにもいかがわしい質問である。わ
いせつ目的、と曲解されても仕方がないくらい、いかがわしい。

 そしてなんと、そんなおもいをめぐらせた直後、みたのだ。カエルが威勢よ
く水に飛び込むのを。ほとりの草むらを三十センチから四十センチの高さに跳
ねあがって、パシャッ。しっかり成長したトノサマである。空中に跳ね上がっ
ているあいだに、トノサマと確認できたのである。むこうはこちらを警戒して
飛び込んだのだろうが、跳ね上がったカエルを見たこちらもびっくりした。
 こぶなの流れは、たった数十メートルの流れなのだが、こぶなが泳ぐにも足
りないくらいの浅い流れである。こぶなの姿はみていない。メダカのほかに、
蛍の棲息には欠かせないというカワニナがいる。カワニナが這って歩いたあと
が水の底の泥土にいくつもの筋になっている。水の底のみみずばれである。
 流れは池に通じている。池には大型のおたまじゃくしがいる。やつらはたい
てい水辺に群れをなしていて、ひとが近づくとけたたましい水音を立てて深場
へ逃げていく。
 カエルは水音を立てない、という説に、せいぜい後ろ足が生えたばかりの、
まだまだガキのやつらが笑いころげる。


2006.7.28