一九六〇年代の歌謡教室 2/2

 前頁

入れにいくのは、そのときどきの生徒の役だ。
 教室の組織票の総数などたかがしれているが、こうしてインチキな人
気投票も加わって、ベストテンにはとどかなかったけれど、二十位以内
に入ることもあって、Zの歌がラジオから流れる。上位になるとフルコ
ーラス放送されるが、順位が低ければワン・コーラスだけだ。Zのデビ
ュー曲はせいぜいそんなところで、あとが続かなかった。
 Zはたいして売れないまま作曲家に転身し、これも肩書だけといった
体たらくで、やがて歌謡教室を開業、そこで優れた指導力を発揮するに
は至らず、二十代女子をひとり、演歌歌手としてデビューさせるところ
まではいった。フォークソングが台頭していたが、演歌もまだまだ元気
な時代だった。


*潮来笠 一九六〇年七月発売。六一年、映画『潮来笠』